真空装置のレトロフィット術:ICF改造とリーク再検証

こんにちは。今回は、既存の真空装置を“いまの要求”に合わせて延命・強化するためのレトロフィットについて、ICF(コンフラット)改造とリーク再検証に絞って、手順と注意点をまとめます。数値条件(トルク・合否値など)は装置や仕様で変わるため、ここでは実務で外しにくい原則だけを丁寧に押さえます。


レトロフィットの狙い:短納期・低コストでの延命と安定

新造よりも早く、コストを抑えながら機能を更新するのがレトロフィット。よくある相談は、Oリング仕様の限界、ポート追加、古いICFの座面劣化、規格不明の独自フランジ対応などです。要は「いまの品質要求に装置を合わせ直す」作業ですね。


改造前の現状把握(ベースラインの確立)

まずは現状を正しく掴むこと。ここを丁寧にやると後工程の迷いが減ります。

  • 図面・現物の差分確認(実測寸法・加工痕・補修跡の記録)
  • 現在の到達圧・リーク試験結果・締結履歴(いつ誰がどう締めたか)
  • 周辺干渉:配管・計測系・シールド・ケーブル取り回し
  • 洗浄状態・梱包癖・保管環境(清浄度とアウトガスの起点)

ICF改造の設計要件(規格適合と互換性の維持)

ICFの基本要素

  • ナイフエッジ:ガスケットを塑性変形させて密封する要。傷・打痕は致命的。
  • メタルガスケット:基本は使い切り前提(再使用しない設計と運用)。
  • ボルトパターン:ピッチ円・穴数・開口径は混在させない(規格に合わせる)。

Oリング仕様からICFへ切り替える判断軸

  • 要求真空度・温度レンジ・清浄度(微粒子・アウトガス)
  • 保全性(分解頻度・再現性)と運用負荷
  • 母材との整合:材質・板厚・熱膨張(歪み対策の余地)

図面で明記したいこと

  • フランジ規格とボルト仕様(サイズ・本数・潤滑の有無)
  • 面粗さ・平面度の要求値(過剰に攻めず、検査方法もセット)
  • 仕上げ順序:荒加工 → 溶接 → 応力評価 → 座面仕上げ

ポート追加・位置変更(機能と剛性の両立)

  • 開口位置は剛性・干渉・排気効率の3点で決める(最短・少曲げ・十分口径)
  • 大開口はリブ・カラーリングで縁剛性を補強
  • 既存面の再加工 vs 新規フランジ溶接:歪み・納期・手直し余地で判断

溶接・機械加工の段取り設計

溶接方法と歪み抑制

  • 基本はTIG。歪みが厳しければEBW/レーザも選択肢
  • 対称溶接・スキップ・バックステップで入熱を分散
  • 仮付けは“位置決め”重視。治具とピンでズレを抑える

加工順序と清浄工程

  • 荒加工 → 溶接 → 応力評価 → 座面仕上げ(ICFは特に後置き)
  • 脱脂・洗浄・乾燥・必要に応じベークを工程として前提化

ICFの取り扱い(破損・再使用の回避)

  • ナイフエッジは保護キャップ・専用治具で扱う(打痕・バリ厳禁)
  • メタルガスケットは基本使い切り。再使用前提の設計にしない
  • 締結は交互・段階トルク。数値はボルトサイズ・潤滑条件で仕様化し記録

リーク再検証の計画(合否は仕様で定義)

試験方式と前提

  • 真空法(チャンバー側真空)とスニファ法(加圧側探索)を使い分け
  • 背景(バックグラウンド)測定とゼロ点管理を事前に実施
  • ヘリウム残留対策:換気・パージ・計測ライン短縮

試験シーケンス(例)

  1. 外観・座面・締結状態の確認
  2. 粗チェック(全体リーク有無の確認)
  3. 局所探索(袋掛け・スポット吹きなどの方法を併用)
  4. 是正(再仕上げ・追い溶接)→ 洗浄
  5. 再試験(同条件で合否判定/記録)

※合否基準(漏れ量の単位・値)は装置仕様で明記し、試験成績書に残します。


是正(リワーク)の標準手順

  • 座面起因:面直し・再仕上げ(ナイフエッジを損なわない範囲で)
  • 継手・溶接部:追い溶接 → 再洗浄 → 再試験
  • 部材交換が妥当なケース:劣化が大きい/再現性が出ない場合

書類と引き渡し(トレーサビリティ)

  • アズビルト図・改造箇所リスト・材料ミルシート
  • 締結記録(ボルトサイズ・手順・ガスケット種)
  • リーク試験成績書(方式・装置・条件・結果・試験日)
  • 洗浄・ベーク・梱包条件(再現可能性の確保)

安全・運用の注意(現場での事故防止)

  • ヘリウム使用時の換気・拡散管理、加圧時の上限値・インターロック
  • 溶接ヒューム・高温部・研削粉の取り扱いと保護具
  • 立ち上げ時の段階増圧・減圧(急変でシールを壊さない)

さいごに:設計→施工→検証を一連で回す

ICF改造は、設計・加工・溶接・洗浄・リーク再検証までを同じ流れで管理すると手戻りが減ります。数値はむやみに攻めず、検査方法と記録まで含めて“仕様化”するのがコツです。

もし「この装置、ICF化やポート追加は可能?」という段階でしたら、図面PDF・現物写真・現在の到達圧/リーク結果をお送りください。改造案と検証計画(試験方式・記録様式)の叩き台をご用意します。部分対応(座面修正のみ、ポート追加のみ)や段階導入もOKです。

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